
ザイオンス効果とは?接触回数で好意が高まる理由と営業での注意点
何度も顔を合わせるうちに、最初は何とも思っていなかった相手に親しみがわいてくる。
心理学では、この現象を「単純接触効果」、または提唱者の名前から「ザイオンス効果」と呼びます。
営業では「接触回数を増やせ」という根拠としてよく引き合いに出されますが、研究を読むと、効果には限界があることも分かってきます。
この記事では、ザイオンス効果の研究を順にたどり、営業での接触の考え方を整理します。
ザイオンス効果は、意味の分からない文字から見つかった
ザイオンス効果を最初に体系的に示したのは、心理学者ロバート・ザイオンス氏が1968年に発表した論文です。
ザイオンス氏は実験の参加者に、意味を知らない文字を見せました。
英語のアルファベットを組み合わせた無意味な単語(参加者には「トルコ語の形容詞」と伝えられました)や、漢字に似せて作った架空の文字です。
文字ごとに見せる回数を、0回から25回まで変えておき、最後に、それぞれの文字が「良い意味」と「悪い意味」のどちらだと思うかを答えてもらいました。
その結果、多く見せた文字ほど、「良い意味だろう」と評価される傾向がありました。
文字の意味は誰も知りません。
それでも、見た回数が多いというだけで、評価が好ましい方向に傾いたのです。
ザイオンス氏はここから、ある対象に繰り返し触れるだけで、その対象への態度は好意的になる、という仮説を示しました。
ここでいう「単純な接触」とは、報酬や説得を伴わず、ただ目や耳に入る状態のことです。
人に対しても、会う回数で好意は高まる
文字で起きることが、人に対しても起きるのか。
それを現実の教室で確かめたのが、1992年にモアランド氏とビーチ氏が発表した研究です。
2人は、外見の似た4人の女性に協力してもらい、100人以上が受講する大学の講義に、学生のふりをして出席してもらいました。
出席する回数は、1人目は0回、2人目は5回、3人目は10回、4人目は15回と、あらかじめ決めておきます。
女性たちは講義に出るだけで、ほかの学生と話すことはありませんでした。
学期の終わりに、受講生130人に4人の写真を見せて印象を尋ねたところ、出席回数の多い女性ほど、魅力的で、好ましく、自分と似ていると評価されていました。
興味深いのは、「見覚えがあるかどうか」への影響は弱かったことです。
学生たちは、彼女たちを見かけたことをはっきり覚えていなくても、好意だけは高めていたことになります。
覚えていなくても好意が生まれるという点は、ほかの研究でも確かめられています。
ボーンスタイン氏らの論文によれば、対象を見たと認識できないほど短い時間しか見せなくても、ザイオンス効果は生じることが報告されています。
接触の効果は、本人が意識しないところで働いている可能性があるのです。
ただし、接触を増やすほど好かれるわけではない
ここまでの研究だけを読むと、「とにかく接触回数を増やせばよい」と考えたくなります。
しかし、その後の研究では、効果には上限があることも分かってきました。
1989年、ボーンスタイン氏は、1968年から1987年までに発表された200以上の実験を統合するメタ分析(多くの研究結果をまとめて全体の傾向を見る方法)を行いました。
その結果、ザイオンス効果は確かに安定して見られる現象であることが確認されました。
一方で、実験室の研究では、10〜20回ほど接触したところで好意の高まりが頭打ちになったり、下がり始めたりする例が、たびたび報告されていました。
その原因として、ボーンスタイン氏らが1990年に確かめたのが「飽き」です。
飽きっぽい性格の人では、ザイオンス効果がまったく見られませんでした。
また、単純な図形よりも、だまし絵のような複雑な図形のほうが、接触を重ねたときの効果が強く出ました。
単純なものほど早く飽きられ、好意の伸びが止まりやすいと考えられています。
2017年には、モントヤ氏らが、81本の論文から得た268のデータを使って、改めてメタ分析を行いました。
その結果、接触回数と好意の関係は、はじめは上がり、ある点を過ぎると下がる「逆U字型」を描くことが示されています。
接触は、ある程度までは好意を高めますが、それを超えると逆効果になりうるのです。
営業での「接触」は、実験の接触とは条件が違う
では、この研究を営業にどう当てはめればよいのでしょうか。
まず押さえておきたいのは、実験と営業とでは、接触の性質が大きく違うことです。
実験で使われたのは、意味のない文字や、言葉を交わさない学生でした。
見る人にとって、得も損もない、中立的な対象です。
一方、営業の接触は、電話、メール、訪問のどれをとっても、相手の時間を使います。
相手が求めていない連絡であれば、それ自体が負担になります。
正直に書くと、営業の連絡の頻度と成約との関係を、ザイオンス効果の研究ほど厳密に調べたデータは、今回は見つけられませんでした。
そのため、ここから先は、研究から読み取れることをもとにした考え方として受け取ってください。
回数よりも、飽きられない中身を考える
ボーンスタイン氏らの研究から読み取れるのは、同じものを繰り返すほど早く飽きられる、ということです。
営業に置き換えると、毎回同じ文面の「その後いかがでしょうか」というメールは、単純な図形を何度も見せている状態に近いかもしれません。
回数は重ねていても、相手にとっては新しい情報がなく、早い段階で好意の伸びが止まる、あるいは下がり始めると考えられます。
反対に、相手の業界の最新の動き、役に立ちそうな事例、前回の会話を踏まえた補足など、毎回中身の違う連絡であれば、接触を重ねても飽きられにくいはずです。
接触の回数を考える前に、「今回の連絡で、相手に何を渡せるか」を考える。
それが、逆U字の下り坂に入らないための、いちばん確かな方法だと思います。
短い接触を、間隔を空けて重ねる
ボーンスタイン氏の1989年のメタ分析では、1回あたりの接触が短いほど効果が大きくなる傾向も報告されています。
もちろん、これは実験室で図形を見せた時間の話で、営業の面談時間にそのまま当てはめることはできません。
ただ、長い面談を1回するより、短いやり取りを何回か重ねるほうが、相手の負担は小さく、関係も自然に続きやすいという感覚は、多くの営業担当者が持っているのではないでしょうか。
たとえば、展示会で名刺を交換した相手がいるとします。
翌日に長い提案メールを送るより、まずは会話の内容に触れた短いお礼を送る。
数週間後に、話に出た課題に関係する記事を1本だけ紹介する。
こうした短い接触の積み重ねは、相手の負担を抑えながら、存在を忘れられないための方法になります。
フォローアップの具体的な進め方は、以前の記事(「営業後のフォローアップが結果を左右する理由と実例」)で扱いました。
「今はいい」と言われたら、接触の形を変える
接触を重ねるうちに、相手から「今は必要ない」とはっきり言われることもあります。
そこで同じ頻度、同じ形の連絡を続けると、接触は好意を高めるどころか、相手にとって避けたいものになりかねません。
そうした場面では、連絡の頻度を下げたり、売り込みを含まない情報提供に切り替えたりと、接触の形を変えることが必要です。
再アプローチの時期の考え方については、以前の記事(「営業で「今はいい」と言われた時の対応:再アプローチのタイミング」)にまとめています。
また、メールで接触を重ねる場合には、法律上の決まりにも注意が必要です。
日本では「特定電子メール法」により、広告や宣伝を目的としたメールは、原則として、あらかじめ受け取ることに同意した相手にしか送れません。
名刺などで自分のメールアドレスを知らせてくれた相手に送る場合など、いくつかの例外はありますが、どこまでが例外に当たるかは、総務省の案内などで確認しておくと安心です。
接触は、好意の「土台」を作るにとどまる
ザイオンス効果が教えてくれるのは、人は見慣れたものに安心し、好意を持ちやすいということです。
ただし、それは関係の入口を作る力であって、それだけで契約が決まるわけではありません。
以前の記事(「営業での好意性の原理:「この人から買いたい」が生まれる理由」)でも書いたように、好意は判断を後押しすることがある一方で、商品そのものの評価に代わるものではありません。
接触を重ねて生まれた親しみは、話を聞いてもらうための土台です。
その上に何を積むかは、毎回の接触の中身にかかっています。
何度も顔を出しているのに、なかなか話が進まない。
そんなときは、回数が足りないのではなく、接触の中身が相手にとって新しくなくなっているのかもしれません。
一度、自分が送った直近の連絡を読み返してみると、その答えが見えてくることがあります。
おわりに
ザイオンス効果は、意味の分からない文字から始まり、教室での実験を経て、今では「接触は増やすほどよいわけではない」というところまで研究が進んでいます。
接触の回数は、相手との距離を縮めるきっかけにはなります。
ただ、その回数が相手にとって負担になった瞬間、効果は逆向きに働き始めます。
何回会うかより、1回ごとに何を届けるか。
研究をたどるほど、営業で考えるべきなのはそちらなのだと感じます。
参考にした情報
- Robert B. Zajonc「Attitudinal Effects of Mere Exposure」Journal of Personality and Social Psychology Monograph Supplement, Vol.9, No.2, 1968年 https://www.researchgate.net/publication/224982289_The_Attitudinal_Effects_of_Mere_Exposure
- Richard L. Moreland, Scott R. Beach「Exposure Effects in the Classroom: The Development of Affinity among Students」Journal of Experimental Social Psychology, Vol.28, 1992年
- Robert F. Bornstein「Exposure and Affect: Overview and Meta-Analysis of Research, 1968-1987」Psychological Bulletin, Vol.106, 1989年
- Robert F. Bornstein, Amy R. Kale, Karen R. Cornell「Boredom as a Limiting Condition on the Mere Exposure Effect」Journal of Personality and Social Psychology, Vol.58, No.5, 1990年 https://static1.squarespace.com/static/53a79084e4b01786c921de45/t/53a8656ce4b0222e1cd80ac2/1403544940972/Boredom+as+a+Limiting+Condition+on+the+Mere+Exposure+Effect+%28Bornstein+et+al.%2C+1990%29.pdf
- R. Matthew Montoya ほか「A Re-Examination of the Mere Exposure Effect: The Influence of Repeated Exposure on Recognition, Familiarity, and Liking」Psychological Bulletin, 2017年 https://doi.org/10.1037/bul0000085
- 総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」国民のためのサイバーセキュリティサイト https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/basic/basic_legal_08.html