
B2B営業とは?B2Cとの違いと、法人の買い手が本当に求めているもの
B2B(Business to Business)営業は企業を相手にした営業、B2C(Business to Consumer)営業は個人の消費者を相手にした営業です。
相手が会社か個人かという違いは、一見すると単純です。
しかし、その違いは、誰が決めるのか、何を基準に選ぶのか、買ったあとに何が起きるのかまで、営業のあらゆる場面に影響します。
この記事では、B2BとB2Cの違いを整理したうえで、「法人の買い手は理屈だけで選ぶ」という思い込みを、調査をもとに見直します。
違いの根っこは、「誰が、何を背負って買うか」
B2BとB2Cの違いは、いくつもの観点から挙げられます。
ただ、その多くは、1つの根本的な違いから生まれています。
買う人が、自分のお金で自分のために買うのか、会社のお金で会社のために買うのか、という違いです。
個人の消費者は、多くの場合、自分で選び、自分で支払い、自分で使います。
失敗しても、その結果を受け止めるのは基本的に自分だけです。
企業の購買では、この3つが別々の人に分かれることが珍しくありません。
実際に使う現場の担当者、予算を管理する部署、最終的に承認する経営者。
1つの購入に何人もの人が関わり、それぞれが違う立場から判断します。
購買に関わる人たちの役割と、本当の意思決定者の見つけ方は、以前の記事(「営業で決定権者を見分ける方法:本当の意思決定者に焦点を当てる」)で扱いました。
関わる人が多ければ、決まるまでの時間も長くなります。
また、一度取引が始まると、契約の更新や追加の発注を通じて、関係が何年も続くことがよくあります。
1回の取引の結果が、その後の関係全体に影響するのです。
既存の顧客との関係を長く続ける考え方は、以前の記事(「営業での長期関係構築:1回の商談ではなく顧客化を目指す戦略」)で扱いました。
「法人の買い手は理屈で選ぶ」は本当か
こうした違いから、「B2Bの購買は、価格や性能を冷静に比べる合理的なものだ」と考えられがちです。
しかし、この思い込みに疑問を投げかけた調査があります。
2013年、GoogleとCEB社(現在はGartner社の一部)は、調査会社と協力して、7つの業種・36のブランドの購買担当者3,000人を対象に調査を行いました。
個人の消費者を対象にした調査と同じ方法を使い、企業の買い手が取引先にどれほど「感情的なつながり」を感じているかを比べたのです。
結果は、多くの人の予想とは逆でした。
個人向けのブランドの多くは、消費者のうち10〜40%としか感情的なつながりを持てていませんでした。
一方、詳しく調べた9つの企業向けブランドのうち、7つは購買担当者の50%を超える人と感情的なつながりを持っていました。
企業の買い手のほうが、個人の消費者よりも、取引先に強い感情的なつながりを感じていたのです。
さらに、商品の「ビジネス上の価値」については、業界内の主要なブランドの間で、買い手の評価にほとんど差がありませんでした。
他社との違いを感じていても、そのために高い価格を払ってもよいと答えた買い手は14%にとどまっています。
性能や機能の差だけでは、選ばれる決め手になりにくいということです。
この調査は、企業向けのマーケティングに関わるGoogleとCEB社が行ったもので、両社には「B2Bでも感情に訴えるマーケティングが重要だ」と示す動機があることも、念頭に置いておく必要があります。
それでも、企業の購買を「理屈だけの世界」と見なす前提は、一度疑ってみる価値がありそうです。
法人の買い手が感情的になるのは、失敗の責任を背負うからだ
では、なぜ企業の買い手は、個人の消費者以上に感情に動かされるのでしょうか。
調査を行ったGoogleとCEB社は、その理由を「リスク」で説明しています。
個人が買い物で失敗しても、多くの場合は返品するか、家族に言い訳をすれば済みます。
しかし、企業の購買で失敗すれば、業績に影響し、場合によっては担当者の評価や職を失うことにもつながります。
だからこそ、企業の買い手は、そのリスクを乗り越えられるだけの安心感や信頼がなければ、購入に踏み切れないのです。
調査では、この「個人にとっての価値」が、購買の判断を大きく左右していることも示されています。
仕事上の評価につながる、自分の選択に自信や誇りを持てる、といった個人的な価値を感じた買い手は、そうでない買い手に比べて、購入する可能性がおよそ50%高くなっていました。
同じような商品でも、高い価格を払ってよいと考える可能性は8倍に上っていました。
ここで言う「感情」とは、商品への好き嫌いのことではありません。
「この会社に任せれば、社内で胸を張れる」「この担当者なら、何かあっても一緒に責任を持ってくれる」という安心感のことです。
B2Bの買い手は、会社のために買いながらも、同時に自分自身の立場や評価をかけて選んでいるのです。
B2B営業で大切にしたいこと
この視点に立つと、B2B営業で大切にしたいことが見えてきます。
1つ目は、会社にとっての価値と、担当者個人にとっての安心の、両方を示すことです。
費用対効果を数字で示すことは欠かせません。
そのうえで、「導入後にこう支えます」「うまくいかなかったときはこう対応します」と、担当者が抱えるリスクを一緒に背負う姿勢を見せることが、最後のひと押しになります。
2つ目は、担当者が社内で説明しやすい材料を渡すことです。
企業の購買では、目の前の担当者が、上司や経営者に提案を説明し、承認を得なければなりません。
たとえば、Web制作の提案であれば、見積書と一緒に、導入の目的、期待できる効果、ほかの選択肢との比較を1枚にまとめた資料を渡す。
それだけで、担当者は社内の会議で自信を持って説明でき、「この提案を通した人」として評価される立場に立てます。
社内で通りやすい提案書の構成については、以前の記事(「営業企画書とは?顧客の課題解決を示す構成のポイント」)で扱いました。
3つ目は、契約したあとも、担当者の選択が正しかったと感じられるようにすることです。
B2Bでは、1回の取引の満足が、更新や紹介、次の発注につながります。
担当者が「あの会社を選んでよかった」と社内で言えるように、導入後の成果を一緒に確かめていく。
それが、B2B営業で長く選ばれ続けるための土台になります。
B2Bの知識は、まだ発展途上でもある
最後に、1つ留保を付けておきます。
マーケティング研究者のゲイリー・リリエン氏は、2016年の論文で、B2BとB2Cの取引は経済的な規模がほぼ同じなのに、B2Bのマーケティングが受けている研究の注目は、B2Cのごく一部にすぎないと指摘しています。
つまり、B2Bの購買について、確かなことが言える研究は、思っているほど多くありません。
この記事で紹介した調査も、その限られた知見の1つです。
B2Bの営業では、一般論をそのまま当てはめるより、目の前の顧客企業の事情を丁寧に聞き取ることが、なおさら大切なのだと思います。
おわりに
B2BとB2Cの違いは、相手が会社か個人かという形の違い以上に、「買う人が何を背負っているか」の違いです。
法人の買い手は、会社のために合理的に選んでいるように見えて、その裏では、自分の評価や責任をかけた判断をしています。
会社にとっての価値を示しながら、担当者個人の安心にも応える。
その両方がそろったとき、B2Bの提案は「選ばれる提案」になるのだと思います。
参考にした情報
- Google, CEB「From Promotion to Emotion: Connecting B2B Customers to Brands」2013年10月 https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/3988/promotion-emotion-b2b_articles_q5pm53H.pdf
- Gary L. Lilien「The B2B Knowledge Gap」International Journal of Research in Marketing, Vol.33, No.3, 2016年 https://doi.org/10.1016/j.ijresmar.2016.01.003