
営業で決定権者を見分ける方法:本当の意思決定者に焦点を当てる
「担当者=決める人」とは限らない、という現実
何度もやり取りを重ね、資料も丁寧に読み込んでくれて、反応も良かった相手なのに、ある日を境に連絡が途絶える。
理由を尋ねても「社内で検討中です」としか返ってこず、そのまま立ち消えになってしまう。
営業をしていれば、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。
これは、あなたの説明が悪かったからではなく、単純に話していた相手が、決める人ではなかったというだけのことかもしれません。
調査会社Gartnerが2025年に行った調査によれば、法人の購買にかかわる人数は平均9〜11人にのぼり、2017年時点の5〜7人から明らかに増えています。
しかも、その関与者は最大4つの部署にまたがり、79%のケースでCFO(最高財務責任者)の承認が必要とされ、38%ではCEOが直接関わっているといいます。
以前の記事(「営業成功者の共通点:何が違うのか?特性と習慣分析」)で紹介したCEB(現Gartner)の調査でも触れましたが、法人営業の商談は、目の前の1人との対話ではなく、姿の見えない大勢との対話だと捉え直す必要があります。
DMU:購買に関わる人には、それぞれ役割がある
この「見えない大勢」を整理するための考え方が、マーケティング・営業の分野で使われる「DMU(Decision Making Unit)」という枠組みです。
これは、1つの購買という出来事の中に、異なる役割を持つ人が同時に存在している、という捉え方です。
使用者(User)は、実際にその商品・サービスを日々使う人です。
現場の使い勝手や運用のしやすさに、誰よりも敏感な立場にいます。
影響者(Influencer)は、専門知識をもとに選定に強い影響を与える人です。
情報システム担当者や、その分野に詳しい別部署の社員が、この役割を担っていることがよくあります。
購買者(Buyer)は、契約や発注の手続きを実際に進める人です。
最初に商談を担当してくれている相手は、多くの場合このポジションにいます。
決定者(Decider)は、最終的にYESかNOかを判断する、決裁権そのものを持つ人です。
厄介なのは、この決定者が、商談の場に一度も姿を現さないまま、承認の可否だけを下すケースが少なくないということです。
それでも決定者に会えないとき、現場でできること
決定者を見分けられたとしても、実際には「決定者は多忙で、最後まで商談の場に出てこない」というケースが珍しくありません。
そんなとき、目の前にいるのが決定者本人でないなら、せめてその人自身の「本音」だけは、はっきりと引き出しておく。
これが、商談を終える前にできる、もっとも実践的な一手です。
具体的には、退席する前に、目の前の担当者へこう尋ねます。
「少なくとも〇〇さんご自身は、良いと思っていただけていますか?」
ここで曖昧な返事しか返ってこないなら、それは決定者うんぬん以前に、目の前の相手すら十分に動かせていなかったということ。
厳しいようですが、その商談は決定者に届く前の時点で、すでに失敗しています。
どこが引っ掛かっているのかを改めてヒアリングし、再度訴求をしていく流れに戻ります。
逆に、ここではっきりと「良いと思います」という言葉を引き出せたなら、そこから先が本題です。
「〇〇さんは直接サービスの内容を聞いてくださいましたが、決定者の方は、細かい部分の情報が分からないままご判断されることになります。ですので、せめて〇〇さんご自身が良いと感じられた、というお気持ちだけは、しっかりお伝えいただけますでしょうか。何かご質問があれば、私からも直接お答えできますので、いつでもご連絡ください」。
ここまで伝えて、席を立つ。
この一言には、いくつもの意味が重なっています。
心理学者ロバート・チャルディーニ氏が提唱した「一貫性の原理」によれば、人は自分の言葉で表明したことには、それと矛盾しない行動を取ろうとする傾向があります。
「良いと思う」と自分の口で言った担当者は、決定者への報告の場でも、その言葉と矛盾しない伝え方を、自然と選びやすくなります。
また、「情報の非対称性(決定者は詳細を知らないまま判断する)」を先に言葉にしておくことで、担当者は「自分が架け橋になる番だ」という役割を、こちらから背負わせるのではなく、自分から引き受けたくなるのです。
決定者に直接会えないという事実は変えられません。
変えられるのは、目の前にいる人が、決定者にどんな言葉で報告するか、その中身です。
今日からできること
今進んでいる商談を1つ思い浮かべ、今やり取りしている相手が、User・Influencer・Buyer・Deciderのどれに近いかを考えてみてください。
決定者に会える見込みがない商談では、退席する前に「少なくともあなた自身はどう感じているか」を、必ず一言確認してみてください。
はっきりとした好意的な返事がもらえたら、その言葉を決定者にそのまま届けてもらえるよう、具体的にお願いする一言を添えてみてください。
まとめ
法人の購買は、今や1人の決断ではなく、平均9〜11人が関わる集団的な意思決定です。
決定者に直接会えないことは珍しくありませんが、それでも、目の前の相手自身の本音を引き出し、その言葉を決定者へ届ける架け橋になってもらうことはできます。
決められない場所で結果を待つのではなく、決められる場所へ、自分の言葉を届けてもらう工夫をすること。
それが、姿の見えない決定者にまで、提案を届かせる現実的な方法です。
参考にした情報
- primeNumber「『売上を決めるのは営業ではなくBuying Group(購買グループ)』――Gartnerが警告する2026年のBtoBマーケティング」https://primenumber.com/blog/primemarketingagent-eb-blog-gartner-buying-group/
- mtame「DMUとは?製造業などのBtoBマーケティングにおける意思決定者や、購買プロセスについて解説!」https://mtame.jp/column/dmu/
- 株式会社シナプス「DMU(意思決定者)と購買意思決定プロセス」https://cyber-synapse.com/dictionary/en-all/dmu_purchasingprocess/
- 株式会社一創「一貫性の原理とは?コミットメントとの関係・心理メカニズムとビジネスでの活用例をわかりやすく解説」https://www.issoh.co.jp/column/details/8463/