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B2C営業とは?個人のお客様の購買心理と、感情に寄り添う営業の考え方
10月 7, 2026 ・ 営業サポート
SALES KNOWLEDGE

B2C営業とは?個人のお客様の購買心理と、感情に寄り添う営業の考え方

B2C(Business to Consumer)営業は、個人のお客様を相手にした営業です。
自分のお金で、自分や家族のために買うお客様の判断には、企業の購買とは違う心の動きがあります。
「個人のお客様は感情で買う」とよく言われますが、その中身を研究で確かめると、もう少し細かく、そして慎重に考えるべき姿が見えてきます。
この記事では、3つの研究をもとに、個人のお客様の購買心理と、それに寄り添う営業の考え方を整理します。

頭がいっぱいのとき、人は感情で選びやすい

個人のお客様は、どんなときに感情で選び、どんなときに理屈で選ぶのでしょうか。
その分かれ目を示したのが、1999年にババ・シブ氏とアレクサンダー・フェドリキン氏が発表した研究です。

2人は、実験の参加者に、ある数字を覚えてもらったうえで、別の部屋へ移動してもらいました。
覚える数字は、一方のグループには2桁、もう一方のグループには7桁です。
移動の途中で、参加者はお礼のおやつとして、チョコレートケーキかフルーツサラダのどちらかを選ぶよう頼まれました。
ケーキは「食べたい」という気持ちに強く訴えるもの、フルーツサラダは「体によい」という理屈に訴えるものです。

その結果、2桁の数字を覚えていた参加者でケーキを選んだのは41%でした。
一方、7桁の数字を覚えていた参加者では、63%がケーキを選んでいました。
頭の中が数字を覚えることでいっぱいになり、じっくり考える余裕がないとき、人は感情に引かれた選択をしやすくなったのです。

この研究には、もう1つ興味深い結果があります。
本物のケーキとフルーツサラダを目の前に見せた場合には差が出ましたが、写真を見せただけの場合には、こうした差は見られませんでした。
感情が判断を動かすには、目の前に実物があるような、具体的な体験が必要だったのです。

個人向けの営業の場面に置き換えてみます。
住宅の展示場や車の販売店を訪れたお客様は、多くの場合、家族を連れ、初めて聞く情報に囲まれ、頭がいっぱいの状態です。
そうしたときに、細かい仕様や数字を次々に説明しても、お客様はそれを処理しきれず、結局は「なんとなくの印象」で判断することになります。
説明を詰め込むより、大切な点を絞って伝え、実物に触れる時間を取るほうが、お客様にとって納得のいく判断につながりやすいのかもしれません。

選択肢は、少なければよいとは限らない

個人のお客様に提案するとき、選択肢をいくつ見せるかは悩ましい問題です。
この問題で有名なのが、2000年にシーナ・アイエンガー氏とマーク・レッパー氏が発表した、いわゆる「ジャムの実験」です。

2人は、アメリカの高級スーパーの入り口に試食コーナーを設け、ある日は6種類、別の日は24種類のジャムを並べました。
24種類のほうが多くの人の足を止めましたが、実際にジャムを買った人の割合は、6種類のときが30%だったのに対し、24種類のときはわずか3%でした。
選択肢が多すぎると、かえって選べなくなる。
この結果は「選択のパラドックス」として広く知られるようになりました。

ところが、この話には続きがあります。
2010年、ベンヤミン・シャイベヘンネ氏らは、同じテーマの50の実験、5,036人分のデータを集めて分析しました。
その結果、選択肢が多いことの悪影響は、平均するとほぼゼロでした。
悪影響が出た実験もあれば、むしろ選択肢が多いほうが選びやすく、満足度も高かった実験もあったのです。
研究者たちは、悪影響が出るための前提条件はいくつか見つかったものの、「この条件なら必ず起きる」という条件は特定できなかったと述べています。

つまり、「選択肢は少ないほどよい」という単純な決まりは、研究からは導けません。
大切なのは数そのものではなく、お客様が選択肢の違いを理解し、比べられるかどうかです。
お客様の希望や予算をよく聞いたうえで、合いそうなものを2〜3に絞り、それぞれの違いを分かりやすく伝える。
選択肢を減らすことが目的ではなく、お客様が自分で選べる状態をつくることが目的なのです。

体験の記憶は、「いちばん強い瞬間」と「最後」で決まる

個人のお客様の満足を考えるうえで、もう1つ知っておきたいのが、体験の記憶のされ方です。

1993年、心理学者のダニエル・カーネマン氏らは、冷たい水を使った実験を行いました。
参加者は、片方の手を14度の冷たい水に60秒間浸します。
もう片方の手では、14度の水に60秒間浸したあと、さらに30秒間、水温が少しだけ上がって15度になるまで浸し続けます。
後半の30秒も冷たくてつらいものの、つらさは少しだけ和らぎます。

そのうえで、もう一度体験するならどちらを選ぶかを尋ねました。
単純に考えれば、つらい時間が短い60秒のほうを選ぶはずです。
ところが、32人のうち22人、69%の参加者が、長いほうの体験をもう一度選んだのです。

カーネマン氏らは、人は体験全体の長さではなく、いちばん強い瞬間と、最後の印象をもとに体験を記憶すると説明しました。
この傾向は「ピーク・エンドの法則」と呼ばれています。
長いほうの体験は、最後が少しだけましだったために、全体として「まだよかった」と記憶されたのです。

個人のお客様にとって、購入は1つの体験です。
たとえば、家族写真の撮影を依頼されたとします。
撮影当日の楽しい瞬間と同じくらい、写真を受け取るときの体験が、お客様の記憶に残ります。
仕上がった写真を、ただデータで送るのではなく、撮影のときの様子に触れた一言を添えて渡す。
それだけで、「頼んでよかった」という記憶の形は変わるはずです。
こうした記憶が、次の依頼や、知人への紹介につながっていきます。

感情に寄り添うことと、感情につけ込むことは違う

ここまでの研究は、個人のお客様の判断に、感情や記憶のされ方が大きく影響することを示しています。
ただし、これらの知見は、使い方を誤ると、お客様の感情につけ込む手法にもなりえます。

お客様の頭がいっぱいのときを狙って、考える余裕を与えずに契約を迫る。
最後の印象だけを良くして、肝心の中身の問題を覆い隠す。
こうしたやり方は、その場では契約につながるかもしれません。
しかし、お客様が落ち着いてから振り返ったとき、残るのは不信感です。

個人のお客様に向き合う営業で大切なのは、感情を利用することではなく、感情に寄り添うことです。
頭がいっぱいなら、情報を絞って、考える時間を渡す。
選びにくそうなら、違いを整理して、選べる状態をつくる。
最後の印象を大切にするのは、体験全体を誠実に積み上げたうえでのことです。
お客様の不安をあおらずに伝える考え方は、以前の記事(「損失回避とは?プロスペクト理論から考える営業での提案の伝え方」)で扱いました。

なお、法人のお客様も、実は理屈だけで選んでいるわけではありません。
企業の購買担当者の感情については、以前の記事(「B2B営業とは?B2Cとの違いと、法人の買い手が本当に求めているもの」)で扱いました。
法人と個人の違いは、感情の有無ではなく、その感情が何に向いているかの違いなのかもしれません。

おわりに

個人のお客様は、自分のお金で、自分や家族のために買います。
だからこそ、その判断には、期待や不安、迷いといった感情が強く表れます。
情報を絞って考える余裕を渡し、選べる状態をつくり、体験の最後まで丁寧に向き合う。
感情に訴えるのではなく、感情に寄り添うことが、個人のお客様に長く選ばれる営業の土台になるのだと思います。

参考にした情報

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