
営業提案資料の作り方:顧客を動かす説得ロジック
なぜ「論理的なだけ」の資料では動かないのか
データや機能比較を丁寧にまとめたのに、顧客の反応が薄い、という経験はないでしょうか。
以前の記事(「営業プレゼンテーション:資料を使わずに商品価値を伝える方法」)では口頭での伝え方を扱いましたが、今回は書面・スライドとしての「提案資料」そのものの作り方を扱います。
資料作成で陥りがちな失敗は、論理(データや根拠)だけを積み上げて、それで十分だと考えてしまうことです。
人を動かすには、論理以外の要素も必要だということが、2300年以上前から指摘されています。
説得の3要素:エトス・パトス・ロゴス
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、著書『弁論術』の中で、人を説得するために必要な3つの要素を示しました。
エトス(信頼)は、話し手・提案者自身への信頼です。
「この会社・この人が言うなら信頼できる」と思ってもらえるかどうかで、同じ内容でも説得力は大きく変わります。
提案資料では、実績数・導入企業数・お客様の声などがこれにあたります。
パトス(感情)は、聞き手の感情に訴えかける要素です。
数字の羅列だけでなく、「同じような課題を抱えていた企業が、どう困っていたか」という具体的な情景を添えることで、聞き手は自分ごととして受け止めやすくなります。
ロゴス(論理)は、データや根拠にもとづく論理的な主張です。
多くの提案資料は、このロゴスの部分(機能比較、価格、効果測定データ)に偏りがちですが、それだけでは「正しいけれど心が動かない」資料になってしまいます。
この3つをバランス良く含めることが、提案資料の説得力を左右します。
資料の骨組み:ピラミッド原則
説得の3要素を「何を入れるか」の話だとすると、それを「どう並べるか」を決めるのが、経営コンサルティング会社マッキンゼーの元コンサルタント、バーバラ・ミント氏が提唱した「ピラミッド原則」です。
これは、1つの結論(頂点)を、複数の根拠(中間層)が支え、それぞれの根拠をさらに具体的な事実・データ(土台)が支える、という階層構造で資料を組み立てる考え方です。
1980年代以降、コンサルティング業界の標準的な文書作成の方法論として使われ続けています。
実務的なポイントは、1枚のスライド・1つのセクションに、伝えたいメッセージを1つに絞ることです。
複数の主張を1枚に詰め込むと、結論があいまいになり、ピラミッドの頂点がぼやけてしまいます。
実際の資料構成に当てはめる
この2つの考え方を組み合わせると、次のような資料構成になります。
まず冒頭で、ピラミッドの頂点にあたる結論(何を提案するか)を明確に示します。
その結論を支える根拠として、ロゴス(データ・効果の見込み)、エトス(実績・導入事例)、パトス(似た課題を抱えた企業の具体的な状況)を、それぞれ独立したセクションとして並べます。
最後に、冒頭で示した結論をもう一度繰り返し、締めくくります。
これは、以前の記事で扱ったPREP法(結論→理由→具体例→結論)の資料版とも言える構成です。
今日からできること
今使っている提案資料を見返し、ロゴス(データ)に偏りすぎていないか、エトス(実績)とパトス(顧客の具体的な状況)が入っているかを確認してみてください。
資料の各ページに、伝えたいメッセージが1つに絞られているかをチェックしてみてください。
資料の冒頭と結びに、同じ結論が明確に書かれているかを確認してみてください。
まとめ
顧客を動かす提案資料には、論理(ロゴス)だけでなく、信頼(エトス)と感情(パトス)という要素が必要です。
その3要素を、ピラミッド原則という結論先出しの骨組みに沿って並べることで、説得力のある資料になります。
データを積み上げるだけでなく、「なぜ信頼できるのか」「なぜ自分ごとと感じられるのか」まで意識してみてください。
参考にした情報
- STUDY HACKER「説得力ある文章で相手を落としたいなら、アリストテレスの『3要素』を盛り込みなさい」https://studyhacker.net/tetsuya-kawakami-interview03
- PRESIDENT Online「欧米のエリートなら必ず習っている…アリストテレスの『ロゴス・エトス・パトス』」https://president.jp/articles/-/76529
- ダイヤモンドオンライン「ロジカルシンキング、問題解決力の根本を解説。マッキンゼーで教えられている文章作成術の決定版」https://diamond.jp/articles/-/343823
- note(安達裕哉氏)「マッキンゼーのビジネス文書スタンダード『バーバラ・ミントのピラミッド原則』を詳しく解説する」https://note.com/yuyadachi/n/nf7cc4c832d2c