
リフレーミングとは?同じ事実を違う見方で伝える営業の考え方
起きた事実は変えられなくても、その事実をどう受け止めるかは変えられる。
心理学では、出来事の意味をとらえ直すことを「リフレーミング」と呼びます。
営業では、自分の緊張や失敗への向き合い方にも、顧客との会話にも関わる考え方です。
この記事では、リフレーミングの考え方と、それを裏づける研究をたどり、営業での使いどころと注意点を整理します。
リフレーミングは、事実を変えずに「意味」を変えること
リフレーミングという言葉を広めたのは、心理療法家のポール・ワツラウィック氏らが1974年に出版した著書『変化の原理』です。
ワツラウィック氏らは、リフレーミングを次のように定義しています。
ある状況が経験されるときの概念的・感情的な枠組みを変え、同じ具体的な状況の「事実」に同じくらい、あるいはそれ以上によく当てはまる別の枠組みに置き直すこと。
そして、それによって、その状況の意味全体を変えること。
この定義で大切なのは、「事実に同じくらい、あるいはそれ以上によく当てはまる」という条件です。
リフレーミングは、都合のいい解釈を押しつけることではありません。
事実はそのままに、同じ事実を説明できる別の見方を見つけることなのです。
なお、以前の記事(「営業数字の見せ方:ROI・効果測定を説得的に伝える方法」)で扱った「フレーミング効果」は、同じ数字を「得られるもの」と「失うもの」のどちらで表現するかによって、相手の選択が変わるという現象でした。
フレーミングが「伝え方」を変える話だとすれば、リフレーミングは「状況そのものの意味づけ」を変える話だと言えます。
感情は、抑え込むより、とらえ直すほうがよい
リフレーミングがなぜ役に立つのか。
それを感情の面から確かめたのが、スタンフォード大学のジェームズ・グロス氏が1998年に発表した研究です。
グロス氏は、120人の参加者に、嫌悪感を催す映像を見せました。
参加者は3つのグループに分けられ、それぞれ違う指示を受けます。
1つ目のグループは、何も感じないように映像のとらえ方を工夫する(再評価)。
2つ目のグループは、見ている人に感情を気づかれないように振る舞う(抑制)。
3つ目のグループは、ただ映像を見る、というものです。
その結果、とらえ方を工夫したグループも、感情を隠したグループも、表情などに表れる感情は、ただ見たグループより少なくなりました。
ところが、中身は大きく違っていました。
とらえ方を工夫したグループでは、嫌悪感そのものが弱まっていました。
一方、感情を隠したグループでは、嫌悪感は弱まらず、緊張やストレスに関わる体の反応がむしろ高まっていたのです。
この結果から読み取れるのは、感情を表に出さないように我慢することと、感情を生む見方そのものを変えることは、まったく別の働きをするということです。
前者は外から見えなくなるだけで、内側の負担はむしろ増えるかもしれません。
後者は、感情が生まれる手前で、その流れを変えることができます。
緊張は「落ち着け」より「ワクワクしている」と言い換える
では、営業の大事な場面で緊張しているとき、自分にどう声をかければよいのでしょうか。
その答えの1つを示したのが、ハーバード・ビジネス・スクールのアリソン・ウッド・ブルックス氏が2014年に発表した研究です。
ブルックス氏はまず、人前で話す前のような緊張にどう対処するのがよいかを尋ね、ほとんどの人が「落ち着こうとする」のがいちばんよいと考えていることを確かめました。
そのうえで、カラオケで歌う、人前でスピーチをする、数学の問題を解くという3つの場面で、別の方法を試しています。
本番の前に、「私はワクワクしている」と声に出して言う、あるいは「ワクワクしよう」というメッセージを受け取るという方法です。
その結果、緊張を「ワクワク」と言い換えた人は、落ち着こうとした人と比べて、実際にワクワクした気持ちを強く感じ、歌、スピーチ、数学のいずれでも良い成果を出しました。
また、状況を「脅威」ではなく「チャンス」としてとらえる傾向も強まっていました。
ブルックス氏は、この結果を「興奮の度合いが近い感情への言い換え」の大切さとして説明しています。
緊張しているとき、心臓は高鳴り、体は興奮した状態にあります。
その状態から「落ち着いた」気持ちに一気に切り替えるのは難しい。
しかし、同じように体が高ぶっている「ワクワク」になら、とらえ直しやすいというわけです。
たとえば、大きな案件の最終プレゼンを前に、手が冷たくなっているとします。
そこで「落ち着け」と自分に言い聞かせても、体の高ぶりはなかなか収まりません。
それよりも「この案件を任されたことに、自分はワクワクしているのだ」と口に出してみる。
緊張そのものを消そうとするのではなく、その高ぶりを、本番に向かう力として受け止め直すのです。
断られることへの不安そのものとの向き合い方は、以前の記事(「営業で断られることを怖れない:心理的恐怖を克服する方法」)でも扱いました。
顧客との会話でのリフレーミング:見方を変える前に、受け止める
リフレーミングは、自分の感情だけでなく、顧客との会話にも使えます。
ただし、営業の場面での顧客向けのリフレーミングについて、グロス氏やブルックス氏の研究ほど厳密に効果を確かめたデータは、今回は見つけられませんでした。
ここから先は、ワツラウィック氏らの定義をもとにした考え方として読んでください。
たとえば、顧客から「以前、同じようなシステムを導入して失敗したので、慎重になっているんです」と言われたとします。
この言葉は、一見すると導入をためらう理由です。
しかし、別の見方をすれば、この顧客は「何が自社に合わなかったのか」をすでに経験として知っているとも言えます。
そこで、「その経験があるからこそ、今回は何を避けるべきかがはっきりしていますね。前回うまくいかなかった点を、まず教えていただけますか」と返すことができます。
ここで大切なのは、2つの点です。
1つは、このとらえ直しが、ワツラウィック氏らの定義どおり、事実にきちんと当てはまっていることです。
過去の失敗が「学び」になっているのは、実際にそうだからであって、営業担当者が都合よく言い換えたからではありません。
もう1つは、とらえ直しを示す前に、相手の気持ちをまず受け止めることです。
「失敗した」という言葉の裏には、時間やお金を無駄にした悔しさや、社内での気まずさがあるかもしれません。
その気持ちに触れないまま、すぐに「それは学びですね」と言い換えれば、相手は自分の経験を軽く扱われたと感じるでしょう。
相手の気持ちを受け止めてから話を進める流れについては、以前の記事(「営業の異議対応:「予算がない」「検討します」への切り返し」)でも扱っています。
リフレーミングと「ごまかし」の境目
リフレーミングは便利な考え方ですが、使い方を誤ると、ごまかしと区別がつかなくなります。
その境目は、ワツラウィック氏らの定義にある「事実に当てはまるかどうか」にあると考えています。
たとえば、納期が遅れそうな状況を「品質をじっくり高める期間」と言い換えたとします。
実際に品質を高めるための作業に時間を使っているのであれば、それは事実に当てはまるとらえ直しです。
しかし、単に作業が遅れているだけなら、それは事実を隠すための言い換えにすぎません。
顧客があとで実情を知ったとき、その言い換えは、失敗そのもの以上に信頼を損なうはずです。
正直なところ、この境目は、言い換えた本人にも見えにくいことがあります。
都合のいい見方を選んでいるとき、人はそれを「前向きなとらえ直し」だと思い込みやすいからです。
迷ったときは、そのとらえ直しを、事情をすべて知っている第三者に説明できるかどうかを考えてみるとよいかもしれません。
おわりに
リフレーミングは、事実を変える技術ではなく、事実の見え方を変える考え方です。
自分の緊張を「ワクワク」と受け止め直すことも、顧客の失敗の経験を「次に活かせる知識」として見直すことも、事実そのものはそのままです。
だからこそ、リフレーミングが力を持つのは、新しい見方が事実にきちんと当てはまっているときだけです。
見方を変える前に、まず事実と、目の前の人の気持ちを確かめる。
その順番を守ることが、リフレーミングを誠実に使うための条件なのだと思います。
参考にした情報
- Paul Watzlawick, John H. Weakland, Richard Fisch『Change: Principles of Problem Formation and Problem Resolution』W. W. Norton, 1974年(邦訳『変化の原理:問題の形成と解決』法政大学出版局)
- James J. Gross「Antecedent- and Response-Focused Emotion Regulation: Divergent Consequences for Experience, Expression, and Physiology」Journal of Personality and Social Psychology, Vol.74, No.1, 1998年 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9457784/
- Alison Wood Brooks「Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement」Journal of Experimental Psychology: General, Vol.143, No.3, 2014年 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24364682/