
商品撮影と人物撮影の美しさの法則
商品撮影と人物撮影は、どちらも「被写体を魅力的に見せる」という目的は同じですが、そのための設定は正反対になることがあります。
人物ではぼかしたい背景が、商品では逆に全体をくっきり見せたい対象になることも少なくありません。
この記事では、被写界深度・光源配置・F値という基本要素を人物と商品でどう使い分けるか、そして商品撮影ならではのeコマース向けの最適化までを、実践的にまとめます。
なお、F値やボケ効果の基本については「F値」って何?:絞り値とボケ効果の関係」で解説していますので、そちらもぜひご覧ください。
人物と商品で「美しさ」の作り方は逆になる
人物撮影では、被写体だけにピントを合わせ、背景を大きくぼかすことで、被写体を際立たせるのが基本でした(被写界深度の考え方です)。
一方、商品撮影、特にアクセサリーや工業製品などディテールを見せたい商品では、商品全体にくっきりピントを合わせることが基本になります。
この違いを軸に、実践的な設定を見ていきます。
F値の使い分け:人物は開ける、商品は絞る
F値(絞り値)は、人物と商品でほぼ逆の使い方になります。
実制作でどう使うか
- 人物撮影:F1.8〜F4程度の開放気味の設定で、被写体を背景から浮き立たせます
- 商品撮影(アクセサリー・小物など):F8〜F11程度まで絞り込み、商品全体にピントを合わせます。細かい装飾や質感の再現には、この深い被写界深度が欠かせません
- 商品撮影でも背景をぼかしたい場合:ライフスタイル訴求のカット(商品を使用シーンの中で見せるようなカット)では、あえて人物撮影に近い開放気味のF値を使うこともあります。「情報を見せたいか、雰囲気を見せたいか」で使い分けます
設定だけでなく、レンズと質感でも表現の幅を広げる
F値による被写界深度の使い分けは基本ですが、美しさ・印象は設定だけで決まるわけではありません。
レンズの選び方や、色の質感を変えるだけでも、人物・商品どちらの魅力の見せ方も変わります。
実制作でどう使うか
- 望遠での圧縮効果:望遠レンズで撮ると、近くの被写体と遠くの背景が重なって見える圧縮効果が生まれます。単に背景をぼかすだけでなく、背景そのものを被写体に迫らせるように見せたいとき(人物の存在感を強調したいカット、商品を背景の世界観と一体化させたいカットなど)に使えます
- 魚眼レンズでのインパクト:超広角と特有の歪みを持つ魚眼レンズは、肉眼では見られない誇張された画になります。知覚を操作し、感情的な反応を強める効果があるとされ、通常のカットに変化を加えたい場面や、商品・空間をダイナミックに見せたい場面に使えます
- モノクロによる本質の強調:色を取り除くと、見る人の注意は色ではなく、被写体の形・質感・表情そのものに向かいます。情報量が少ない分、ストレートに伝わりやすく、ノスタルジックで印象的な雰囲気を作れます。人物の表情を際立たせたいカットや、商品の素材感(金属・木・革など)を強調したいカットに向いています
これらは奇をてらうための技法ではなく、伝えたい印象に応じて選ぶ表現の引き出しの1つとして使うのが基本です。
光源配置:人物は柔らかく、商品は反射をコントロールする
光源の配置も、被写体の素材によって考え方が変わります。
基本になる主光源(キーライト)と補助光(フィルライト)の関係は、人物・商品どちらも共通ですが、商品では「反射」への配慮が加わります。
実制作でどう使うか
- 人物撮影:ディフューザーやソフトボックスで光を柔らかくし、影を和らげます(ライティングの基本と同じ考え方です)
- 光沢物(アクセサリー・ガラス・金属製品)の撮影:点光源をそのまま当てると、不自然に強い白い光点(ハレーション)が写り込みます。照明を壁や天井にバウンスさせる、または乳白色の板を通すことで、光を「面」として当て、滑らかなグラデーションを作ります
- 周囲の映り込み対策:撮影テント(360度をディフューザーで覆う簡易ブース)を使うと、外部の光や物の映り込みを物理的に遮断できます
- カメラマン自身の映り込み対策:中央にレンズを通す穴を開けた白いレフ板(のぞき窓)を使うと、カメラマンの服やカメラ本体が商品に映り込むのを防げます
eコマース向けの最適化:出品先ごとの仕様に合わせる
自社サイトやSNS用の商品写真と違い、ECモールに出品する商品画像には、プラットフォームごとに細かいルールがあります。
撮影段階でこれを意識しておくと、あとから撮り直す手間が省けます。
実制作でどう使うか
- 背景:楽天市場は白背景・写真背景のどちらも使えますが、Amazonはメイン画像に純白背景を求めます。両方に出品する予定がある場合は、白背景で撮影しておくと展開しやすくなります
- 画像サイズ:楽天市場の推奨は正方形700×700px以上、Amazonはズーム機能のために1600px以上が推奨されています。将来の出品先の変更にも備え、できるだけ高解像度で撮影・保存しておくのが安全です
- テキストの配置ルール(楽天):商品名・ロゴ・キャッチコピーなどのテキスト要素は、画像全体の20%以下に収める必要があります
- 枠線の禁止(楽天):第1商品画像に枠線や帯状のデザインを入れることはできません
- 白背景の均一性:白背景で撮る場合、照明や影の影響でグレーがかって見えないよう、光量と当て方を確認します
映っていないものを想像させる
ここまでは、設定やレンズといった視覚的な要素の話でした。
しかし、人物や商品が魅力的に見えるかどうかは、視覚的な情報だけで決まるわけではありません。
見る人が、画面に写っていないもの、たとえばその人物のバックボーンや、そこに至るまでのストーリー、この先に待っている期待感を想像できるとき、被写体はより魅力的に見えることがあります。
これは商業写真の分野でよく語られる考え方で、「今の自分に必要なものだと認識させること」が、ストーリー性のある写真の本質だとされています。
たとえばスキンケア商品の写真は、単に商品を美しく写すだけでなく、「これを使えば、写真のような肌になれるかもしれない」という未来の姿を想像させます。
料理の写真も同様に、その場の空間でゆったりと味わっている自分の姿を想像させることで、より強く惹きつけます。
実制作でどう使うか
- あえて全部を見せない:フレームの中に意図的な余白を残す、逆光や半逆光で光源そのものは直接見せない、といった手法は、見る人の想像の余地を残し、写っていない背景を想像させる効果があります
- 人物撮影:作業中の手元や、道具、少し離れた場所からの一瞬など、本人の背景を感じさせるディテールを1カット挟むと、その人の歩んできた時間や専門性が伝わりやすくなります
- 商品撮影:商品単体のきれいなカットに加えて、使用後の変化や、使っている場面の一部だけを見せるカットを組み合わせると、見る人が「自分が使ったらどうなるか」を想像しやすくなります
- 設定・レンズの技法と組み合わせる:望遠の圧縮効果やモノクロといった表現も、単なる見た目の変化としてではなく、「この技法を使うと、どんなストーリーや期待感を想像させられるか」という視点で選ぶと、より説得力のある1カットになります
シーン別・撮影の組み立て方
ECサイト掲載用の商品単体カット:F8〜F11で全体にピントを合わせ、白背景・撮影テントで反射をコントロールし、出品予定のモールの画像サイズ・ルールに合わせて撮影します。
ブランドムービー・SNS用のライフスタイルカット:あえて開放気味のF値で背景をぼかし、商品を使うシーンの雰囲気を伝えます。
人物と商品を同時に見せるカット(採用動画の製品紹介など):話者にピントを合わせて背景をぼかしつつ、別カットで商品単体を絞り込んだ設定で押さえておくと、編集で使い分けられます。
ブランドムービーのオープニング・エンディング:望遠の圧縮効果やモノクロを使った象徴的な1カットに、本人や商品の背景を感じさせるディテールを添えると、視覚的なインパクトとストーリー性を両立できます。
まとめ
人物撮影は被写体を浮き立たせるために背景をぼかし、商品撮影はディテールを見せるために全体にピントを合わせるという、F値の使い方における対比がこの記事の軸です。
そこに望遠の圧縮効果・魚眼・モノクロといったレンズや質感の選択肢を加えることで、表現の幅はさらに広がります。
商品撮影では、それに加えて光沢物の反射対策と、出品先のECモールごとの画像仕様への対応が、仕上がりと実務効率の両方を左右します。
そして忘れてはならないのが、魅力は視覚的な要素だけで決まるわけではないという点です。
バックボーンやストーリー、この先への期待感といった、画面に写っていないものを想像させられるかどうかが、人物・商品どちらの魅力もさらに引き上げます。
「何を見せたいか」だけでなく「何を想像させたいか」までを含めて設定と構成を選ぶことが、人物・商品どちらの撮影にも共通する基本姿勢になります。
参考にした情報
- 商品写真が映える!魅力的に見せるライティングの基本|エリアドライブ https://www.areadrive.jp/column/photo/slug-product-photo-lighting/
- アクセサリー撮影の写り込み防止ガイド|バーチャルフォト https://photo-o.com/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC%E6%92%AE%E5%BD%B1%E3%81%AE%E5%86%99%E3%82%8A%E8%BE%BC%E3%81%BF%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89/
- 楽天市場の商品画像ガイドライン|第1商品画像・20%ルール・撮影ポイント|AirPhoto https://airphoto.jp/blog/ec-055
- Yahoo!ショッピング・Amazon・楽天市場など。ECモール別商品画像サイズ・画像規約まとめ|EC-HOWTO https://ec-howto.com/store-opening/photo-size/
- 写真用語集:圧縮効果 – キヤノン公式 https://personal.canon.jp/articles/beginner/glossary/asshukukoka
- 魚眼レンズの表現力 – 映画での使用例|CineD https://www.cined.com/jp/narrative-powers-of-a-fisheye-lens-with-film-examples/
- アートな魅力!僕がモノクロ(白黒)写真に惹かれる8つの理由|ふぉとぷろむなーど https://photo-promenade.com/monochrome-photography/
- 写真は“撮らない”ことが重要|余白を活かした撮影テクニック|ShaSha https://www.kitamura.jp/shasha/nikon/yohaku-technique-20231018/
- ストーリー性のある写真が購買意欲を上げて『伝わる写真』になる https://creatorofart.net/story-photo