
ソニーで暗い場所に強いカメラは?α7S III・FX3・ZV-E1を比較
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結婚式の披露宴、夜の街、照明を落としたライブ会場。
暗い場所での動画撮影に強いソニーのカメラとして名前が挙がるのが、α7S III、映像制作向けのCinema Lineに属するFX3、そしてVlog向けのZV-E1です。
3機種は、フルサイズで有効約1210万画素という同じ大きさ・同じ画素数のセンサーを搭載しており、この少ない画素数こそが暗い場所での強さの源になっています。
この記事では、ソニー公式サイトの主な仕様の数値をもとに、3機種が暗所に強い理由を掘り下げ、暗い現場でのISOの使い方と、同じセンサーを持つ3機種の使い分けまで整理します。
最後に、画素数も必要な場合の選択肢として、FX2にも触れます。
FX3は、現在は型番「ILME-FX3A」のモデルが販売されており、従来の「ILME-FX3」は生産完了となっています。この記事のFX3の仕様は、ILME-FX3Aの主な仕様に基づいています。
1210万画素は「少ない」のではなく「1つが大きい」

約1210万画素という数字は、高画素化が進むほかの機種と比べると見劣りするように見えます。
しかし、センサーの大きさが同じフルサイズであれば、画素数が少ないほど、画素1つあたりの面積は大きくなります。
公式の仕様に記載されたセンサーの横幅と、横方向の画素数から、画素1つの幅を計算してみます。
- α7S III・FX3・ZV-E1:横幅約35.6mm、横4240画素で、画素1つの幅は約8.4μm(マイクロメートル)
- α7 V:横幅約35.9mm、横7008画素で、約5.1μm
- α7R VI:横幅約35.9mm、横9984画素で、約3.6μm
画素の面積は幅の2乗で決まるため、3機種の画素1つの面積は、α7 Vのおよそ2.7倍、α7R VIのおよそ5.4倍になります。
1つの画素が受け止められる光の量が多いほど、暗い場面でも信号をしっかり得やすく、ノイズの影響を受けにくいと一般に考えられています。
もう1つ注目したいのが、横4240画素という数字です。
4K動画の横の画素数は3840なので、このセンサーは、4K動画に必要な画素数をわずかに上回る程度の、ほぼ4Kにちょうどよい大きさです。
ソニーはZV-E1について、「フルサイズ領域で画素加算なし、全画素4K読み出しが可能」と説明しています。
高画素の機種のように、多くの画素から4Kの映像を作るために情報をまとめる必要がない設計だと言えます。
こうした設計は、読み出しの速さにも表れていると考えられます。
映像機材の検証メディアCineDは、α7S IIIのローリングシャッター(カメラを素早く振ったときに縦の線が傾く現象)の測定値を約8.7ミリ秒と報告し、測定時点のフルサイズ機として最も良い値だったとしています。
積層型ではない「Exmor R」というセンサーですが、読み出す画素の数そのものが少ないことが、速さにつながっている可能性があります。
実制作でどう使うか
- 4Kで仕上げる映像なら、画素数の少なさは弱点にならない:完成する映像が4Kや1080pであれば、約1210万画素でも解像度は足りています。暗い場面での画質を最優先にするなら、画素数の多さより画素の大きさを重視する選択には十分な理由があります
- 暗い場所で動きのある撮影をするなら、両方の強みが活きる:ライブや夜のイベントのように、暗いうえにカメラを振る場面では、ノイズの少なさと読み出しの速さが同時に求められます。こうした現場は、このセンサーの設計がもっとも活きる場面だと言えます
暗い場所でピントが合うか:「EV-6」という数字の意味

暗い場所での撮影では、ノイズと同じくらい、ピントが合うかどうかが問題になります。
カメラが自動でピントを合わせられる明るさの下限は、主な仕様の「検出輝度範囲」に記載されています。
数値が小さいほど、より暗い場所でもピントを合わせられることを意味します。
EVの数値は1違うと明るさが2倍違うため、EV-6とEV-4の差は、明るさにしておよそ4分の1の暗さまでピントを合わせられる、ということです。
ただし、この数値を比べるときは、測定の条件に注意が必要です。
たとえばα7R VIもEV-6からと記載されていますが、その条件は「F1.2レンズ使用」です。
F2.0とF1.2では、レンズが取り込める光の量がおよそ1.5段違うため、同じ「EV-6」でも、条件をそろえて比べることはできません。
実制作でどう使うか
- 暗い現場でピントを任せたいなら、明るいレンズと組み合わせる:検出輝度範囲は、使うレンズの明るさに左右されます。暗い会場での撮影では、F1.4やF1.8といった明るいレンズを組み合わせることで、ピントを合わせられる範囲をさらに広げられると考えられます
- ピントを外せない場面では、マニュアルでの確認手段も用意しておく:どれだけ暗所に強いカメラでも、真っ暗に近い場面ではピントが迷うことがあります。結婚式の入場シーンのように撮り直しがきかない場面では、ピントを拡大表示で確かめるなど、手動で確認する段取りも決めておくと安心です
「ISOを上げるとノイズが減る」? 2つの基準感度という考え方

ISO感度を上げると、センサーが受け取った信号を増幅するため、ノイズも一緒に増えるのが基本です。
カメラによっては、この基準となる感度「ベースISO」を2つ持つものがあることは、以前の記事(「ISO感度の使い方:暗さを補正する際の注意点」)で紹介しました。
ソニーの業務用映像機器の公式サイトでは、この「デュアルベースISO」について、通常の明るさと暗い場所の両方で、ノイズが少なくダイナミックレンジの広い映像を撮るための機能だと説明しています。
そのうえで、基準の感度から+6dB(ISOにしておよそ2倍)を超えて上げるよりも、もう1つの高い基準感度に切り替えたほうが、よい結果が得られるとしています。
この記事では、FX3(とFX6)の2つの基準感度は、S-Log3撮影時にISO800とISO12800だと説明されています。
さらに、S-Log3で撮るFX3では、ISO10000よりISO12800で撮ったほうがノイズは少なくなる、という例まで挙げられています。
ISOを上げたのに、かえってノイズが減る。
これが、2つの基準感度を持つカメラならではの性質です。
一方、α7S IIIとZV-E1の主な仕様には、ベースISOが2つあるという記載はなく、ソニーの同じ記事でも取り上げられていません。
海外の検証記事では、α7S IIIもS-Log3撮影時に2か所の基準となる感度を持つと報告されていますが、具体的な数値は記事によって異なり、公式には確認できません。
センサーの大きさと画素数がFX3と同じだからといって、基準感度まで同じとは言い切れないため、この2機種では数値を決めつけず、自分のカメラで確かめておくのが安全だと思います。
実制作でどう使うか
- FX3では、ISO12800の手前で粘らない:S-Log3で暗い場面を撮るとき、ISO10000のように12800の少し手前の感度で粘るより、ISO12800に切り替えたほうがノイズの少ない映像になると、ソニー自身が説明しています。暗い現場では「足りなければ12800へ」と決めておくと、迷いが減ります
- α7S IIIとZV-E1では、撮影前にISOごとのノイズを試しておく:暗い部屋で、同じ被写体をISO640から1段ずつ上げながら数秒ずつ撮り、編集ソフトで暗部のノイズを見比べてみてください。ノイズが急に少なくなる感度が見つかれば、それが現場で「ここまでは上げてよい」と判断する基準になります
暗い場所ほど「暗く撮りすぎない」

暗所に強いカメラを使うと、少し暗めに撮っても後から明るくすればよい、と考えたくなります。
しかし、この考え方には注意が必要です。
先ほどのCineDの検証では、α7S IIIはカメラの内部でノイズを抑える処理が強くかかっており、暗い部分のノイズは非常にきれいに見える一方で、暗部の細かな情報を後から持ち上げる余地は、他社の比較機種より小さかったと報告されています。
カメラの中でノイズがきれいに消されている分、暗く撮った部分を編集で明るくしたときに、細部が失われたように見えることがあるということです。
この性質を踏まえると、暗い場所での撮影ほど、撮影の段階で必要な明るさを確保しておくことが大切になります。
小さなLEDライトを1灯足すだけでも、ISOを上げすぎずに、編集で明るさを無理に持ち上げる必要のない映像を撮りやすくなります。
照明を足す考え方や、夜間の撮影で画質と機動力のどちらを優先するかについては、以前の記事(「撮影環境別の対応ガイド:自然光・室内・夜間・低光量」)で扱いました。
同じセンサーを、3つの形で:α7S III・FX3・ZV-E1の違い

ここまで見てきたように、3機種はセンサーの大きさと画素数、ISO感度の範囲(動画でISO80〜102400相当、拡張で409600相当)、暗所でのピント合わせの下限(EV-6)、S-Log3での15+ストップという階調の幅が共通しています。
写る映像の性質はほぼ同じで、違うのはカメラの形と、撮影を支える仕組みです。
α7S III:ファインダーと2枚のカードで確実に撮る
約944万ドットの電子ビューファインダーを備え、2つのカードスロットの両方がCFexpress Type AとSDカードに対応しています。
4Kで最大119.88pの記録にも、そのまま対応しています。
一方で、動画で認識できる被写体は人物のみで、動画用の手ブレ補正モードは「アクティブ」と「スタンダード」です。
バッテリーとメモリーカードを含む重さは約699gです。
FX3:ハンドルを付けて、長く回し続ける
主な仕様にファインダーの項目はなく、液晶モニター(約236万ドット)で確認しながら撮る形です。
冷却ファンを搭載し、長時間の4K 60p撮影に配慮した設計だとソニーは説明しています。
業務用のマイクをつなげるXLR端子を備えた「XLRハンドルユニット」が同梱され、本体に5か所、ハンドルに3か所のネジ穴で、モニターやワイヤレスマイクの受信機などを直接取り付けられます。
映画などで使われる横4096画素の「DCI 4K」での記録にも対応しています。
動画で認識できる被写体は、α7S IIIと同じく人物のみです。
重さは約715g、XLRハンドルを付けると約1.015kgになります。
ZV-E1:軽さと被写体認識で、1人で動き回る
バッテリーとメモリーカードを含む重さが約483gと、3機種で最も軽量です。
動画でも、人物に加えて動物・鳥・昆虫・車・列車・飛行機を認識でき、動画用の手ブレ補正には、より強力な「ダイナミックアクティブ」モードも備えています。
一方で、ファインダーはなく、液晶モニターは約104万ドット、カードスロットはSDカード用の1つです。
4K 120pは、ソニーが無料で提供するアップグレードライセンスを適用することで記録できるようになります。
なお、3機種とも4K 120pで記録するときは、画角が約10%狭くなるとソニーは説明しています。
実制作でどう使うか
- 暗い会場で、長時間を1人で収録するならFX3:披露宴や講演会のように、暗い会場で1時間以上回し続け、XLRのマイクで音もしっかり録りたい現場では、冷却ファンとXLRハンドルを備えたFX3のほうが安心して任せられます。ソニーが2つの基準感度を公式に示している点も、暗所での判断のしやすさにつながります
- 明るい屋外も撮る、写真も撮る、失敗できないならα7S III:日中の屋外では、液晶モニターが見えにくくなることがあります。ファインダーをのぞいて撮れ、2枚のカードに同時記録できるα7S IIIは、明暗の差が大きい一日がかりのロケや、撮り直しのきかない現場で扱いやすくなります
- 夜の街歩きや旅行、ペットや乗り物を撮るならZV-E1:暗い場所で動き回りながら撮る撮影では、軽さと手ブレ補正の強さが効いてきます。動画で人物以外の被写体を認識できるのは3機種の中でZV-E1だけのため、夜の動物園や乗り物の撮影のように、人物以外を追う場面ではZV-E1が有利です
画素数も必要なら:デュアル・ベースISOを公式に掲げるFX2

ここまでの3機種は、暗所に強い代わりに、写真の画素数や構図を切り出す余裕を手放しています。
画素数も確保しながら暗所への備えもしたい場合の選択肢が、同じCinema LineのFX2です。
FX2は約3300万画素のセンサーを搭載し、ソニーは「2つの基準ISO感度(ISO800とISO4000)に切り換え可能なデュアル・ベースISO」に対応し、2つの感度のノイズレベルはほぼ同等だと説明しています。
ファインダーと冷却ファンを備え、動画でも人物から乗り物まで認識できます。
ただし、画素1つの大きさは3機種より小さく(約5.1μm)、暗所でのピント合わせの下限はEV-4と、3機種のEV-6には届きません。
また、ソニーの説明では、FX2の4K 60p記録はAPS-C/Super 35mmの記録モードのみとなっています。
暗所での強さを最優先するなら3機種、写真や切り出しの余裕も含めたバランスを取るならFX2、という位置づけだと考えられます。
3機種が暗所の強さと引き換えにしているもの

最後に、α7S III・FX3・ZV-E1に共通する弱点も整理しておきます。
- 写真の画素数:約1210万画素のため、写真を大きく印刷したり、後から大きくトリミングしたりする用途には向きません
- 8Kと切り出しの余裕:8K記録には対応しておらず、4Kの映像から構図を大きく切り出す余裕もありません
- 手ブレ補正の数値:静止画で、α7S IIIとFX3は5.5段、ZV-E1は5.0段(いずれも従来のCIPA規格、ピッチ・ヨー方向)です。現行のα7 Vなどとは測定の規格が異なるため単純には比べられませんが、手持ちで歩きながら撮る場合は、ジンバルとの併用も検討する価値があります
- バッテリーの持ち:実動画撮影時(液晶モニター使用時)は、3機種とも約95分です。長時間の撮影では予備バッテリーが欠かせません
現行の主要機種との比較は、以前の記事(「ソニーのフルサイズミラーレス比較:α1 II・α7R VI・α7 V・α7C IIの選び方」)で扱いました。
まとめ
α7S III・FX3・ZV-E1が暗い場所に強い理由は、約1210万画素という少ない画素数によって、画素1つあたりの面積が大きくなっていることにあります。
センサーの横の画素数が4K動画にほぼちょうどよい点や、暗い場所でのピント合わせの下限がEV-6である点も、暗所での強さを支えています。
FX3はソニーが2つの基準感度(S-Log3でISO800と12800)を公式に示しており、α7S IIIとZV-E1は公式の記載がないため、自分のカメラでISOごとのノイズを確かめておくことが大切です。
写る映像の性質はほぼ同じでも、FX3は長時間の収録と拡張性、α7S IIIはファインダーと確実さ、ZV-E1は軽さと被写体認識という違いがあり、画素数も必要ならFX2という選択肢もあります。
どの機種を選ぶにしても、暗所の強さと引き換えに手放しているものを理解したうえで使えば、暗い現場で頼れる相棒になってくれるはずです。
参考にした情報
- ソニー「α7S III(ILCE-7SM3)主な仕様」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7SM3/spec.html
- ソニー「α7S III 特長」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7SM3/feature_1.html
- ソニー「FX3(ILME-FX3A)主な仕様」 https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX3A/spec.html
- ソニー「FX3(ILME-FX3A)商品情報」 https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX3A/
- ソニー「FX3(ILME-FX3A)の特長:プロに応える信頼性」 https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX3A/feature_5.html
- ソニー「VLOGCAM ZV-E1 主な仕様」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ZV-E1/spec.html
- ソニー「VLOGCAM ZV-E1 特長:主役を引き立てる映像表現」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ZV-E1/feature_1.html
- ソニー「FX2 主な仕様」 https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX2B/spec.html
- ソニー「FX2 の特長:シネマの映像表現」 https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX2B/feature_1.html
- ソニー「α7 V(ILCE-7M5)主な仕様」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7M5/spec.html
- ソニー「α7R VI(ILCE-7RM6)主な仕様」 https://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7RM6/spec.html
- Sony Electronics「What is Dual Base ISO?」(Alister Chapman、2021年) https://sony-cinematography.com/articles/what-is-dual-base-iso/
- CineD「待望のソニーα7S IIIの製品版がCineDに到着したのでラボテストを行った。」(2020年10月9日) https://www.cined.com/jp/sony-a7s-iii-lab-test-does-it-live-up-to-the-hype/