
営業での「沈黙」の使い方:心理的な空白が生む成約効果
前回の「聞くための沈黙」との違い
以前の記事(「営業傾聴スキルの磨き方:相手の話を引き出す5つのコツ」)で、相手が話し終えた直後に2〜3秒の沈黙を作る技術を紹介しました。
あちらは、相手にもっと話してもらうための「聞くための沈黙」でした。
今回扱うのは、提案や見積もりを伝えた後、顧客が意思決定を検討している場面での沈黙です。
場面もタイミングも異なるので、混同しないよう分けて解説します。
「ゴールデンサイレンス」:提案後、顧客が考える時間
営業の現場では、価格や条件を提示した直後に訪れる沈黙のことを「ゴールデンサイレンス」と呼ぶことがあります。
多くの営業担当者は、この沈黙に耐えられず、「いかがでしょうか」「何かご不明な点はありますか」といった言葉で沈黙を埋めようとしてしまいます。
しかし、この沈黙は気まずい空白ではなく、顧客が提案内容を頭の中で検討している時間です。
ここで営業側が話し続けてしまうと、顧客の思考が中断され、かえって十分な検討ができないまま返事をさせてしまうことになります。
なぜ沈黙が効果的なのか:MIT Sloanの研究
この「沈黙が交渉・商談の質を高める」という考え方には、学術的な裏付けがあります。
MIT スローン経営大学院のジャレッド・カーハン教授らの研究チームは、4つの実験を通じて、交渉中の沈黙が結果に与える影響を調べ、学術誌『Journal of Applied Psychology』にその成果を発表しました。
研究によれば、交渉中にあえて沈黙の時間を作ることで、当事者の思考が「限られたパイを奪い合う」という反射的な発想から、「お互いにとってより良い着地点を探る」という、じっくり考える思考モードへ切り替わることが分かりました。
重要なのは、この効果が沈黙を作った側だけでなく、交渉・商談に関わる双方にとって良い結果につながっていたという点です。
つまり沈黙は、相手を焦らせて丸め込むための駆け引きではなく、両者がより落ち着いて、納得のいく判断をするための時間だということです。
実践のポイント
価格や提案を伝え終えたら、こちらから次の言葉を発する前に、心の中でゆっくり数を数えてみてください。
沈黙の間、腕を組んだり急かすような表情をしたりせず、穏やかな態度を保つことも大切です。
顧客が考え込んでいる様子であれば、それは検討が進んでいるサインなので、口を挟まず待ちます。
反対に、顧客が明らかに困った表情をしていたり、話が完全に停止してしまっていたりする場合は、無理に沈黙を続けず、「何かご不明な点はございますか」と声をかけて構いません。
沈黙はあくまで「相手に考える時間を与える」ための技術であり、相手を追い詰めるための駆け引きにしないことが前提です。
今日からできること
次に価格や提案を伝えたら、自分から話し始める前に、心の中でゆっくり5つ数えてみてください。
沈黙の間、つい口を挟みたくなる自分に気づいたら、以前の記事の「聞くための沈黙」との違いを思い出し、今は「相手が考える時間」だと捉え直してみてください。
商談の振り返りで、沈黙を作れた場面・作れなかった場面をメモしておくと、次第にコントロールできるようになります。
まとめ
提案後の沈黙は、気まずい空白ではなく、顧客が納得のいく判断をするために必要な時間です。
MIT Sloanの研究が示す通り、この沈黙は駆け引きではなく、双方にとってより良い結果につながる、思考を切り替えるための時間です。
話し続けたくなる気持ちを抑え、相手の検討時間を守ることが、結果的に成約への近道になります。
参考にした情報
- Curhan, J. et al.「Silence is golden: Extended silence, deliberative mindset, and value creation in negotiation」Journal of Applied Psychology(MIT Sloan掲載記事)https://mitsloan.mit.edu/ideas-made-to-matter/negotiation-use-silence-to-improve-outcomes-all
- インビクタス「営業の沈黙で成約率UP|サイレントクロージングの極意と実践法」https://invictus.co.jp/know-how/sales-silence/