
営業のモチベーション維持:目標設定とごほうびの仕組み
モチベーションは「気合い」では続かない
「モチベーションを高く持とう」という精神論だけでは、長続きしません。
以前の記事(「営業成功者の共通点:何が違うのか?特性と習慣分析」)で触れた「やり抜く力」も、根性論ではなく、目標の立て方や報酬の与え方といった「仕組み」によって支えられている部分が大きいことが、心理学の研究で分かっています。
今回は、モチベーションを保つための目標設定と、ごほうび(報酬)の正しい使い方について、研究データをもとに整理します。
目標設定理論:目標の立て方でパフォーマンスが変わる
心理学者エドウィン・ロック氏は1968年、「目標設定理論」という考え方を発表しました。
この理論の中心的な発見は、「具体的で、難易度の高い目標」を設定した人の方が、「とにかく頑張ろう」というあいまいな目標や、簡単すぎる目標を設定した人よりも、高いパフォーマンスを発揮するというものです。
その後の研究(ロック氏と心理学者ゲイリー・レイサム氏による)では、目標設定の効果を高める条件として、目標が具体的であること、適度に難易度が高いこと、そして達成度についてのフィードバックが定期的にあることが重要だと示されています。
つまり、「今月◯件成約する」という数字だけを掲げるより、「今月◯件成約する。そのために毎週の進捗を確認する」というように、フィードバックの仕組みまで含めて目標を設計することが、モチベーション維持につながるということです。
「ごほうび」が逆効果になることもある:アンダーマイニング効果
目標を達成したら報酬を与える、というインセンティブ設計は営業の現場で広く使われていますが、使い方を誤ると逆効果になることが、心理学の実験で示されています。
心理学者エドワード・デシ氏とマーク・レッパー氏は1971年、学生を対象に「ソマパズル」という立体パズルを使った実験を行いました。
パズルを解くこと自体に興味を持って取り組んでいた学生たちを2つのグループに分け、一方には「1問解くごとに報酬(1ドル)を渡す」、もう一方には「報酬を渡さない」という条件で作業をさせました。
その結果、報酬を渡されたグループは、セッションを重ねるごとにパズルへ自発的に取り組む時間が短くなっていったのに対し、報酬なしのグループは変化がありませんでした。
これは「アンダーマイニング効果」と呼ばれ、本来「面白いからやりたい」という内発的な気持ちで取り組んでいたことに外的な報酬を与えると、かえって意欲が下がってしまう現象です。
営業の文脈で言えば、外的な報酬(インセンティブ)は「活動量」を増やす効果は強い一方、「質」の高い提案や工夫といった部分は、内発的な動機づけに支えられている傾向が強いことが分かっています。
重要なのは、報酬をなくすことではなく、「報酬のためだけに動いている」という感覚にさせないことです。
本人が自分の判断で工夫できる余地を残した上で報酬を設計すると、アンダーマイニング効果は起きにくいとされています。
実務でどう両立させるか
活動量(架電数、訪問数など)に対する報酬と、成果の質(提案内容の工夫、顧客からの評価など)に対する評価は、分けて考えるのが実践的です。
活動量については、具体的な数値目標と、こまめなフィードバックの仕組み(週次での進捗確認など)を用意します。
提案の質や工夫については、報酬で釣るのではなく、「どう工夫したか」を自分で振り返り、周囲からも認められる機会(共有会、称賛など)を作る方が、内発的な意欲を維持しやすくなります。
どちらか一方だけに頼るのではなく、この2つを分けて設計することが、長期的にモチベーションを保つ鍵になります。
今日からできること
今月の目標を、「頑張る」ではなく、具体的な数字と期限で書き直してみてください。
その目標について、週に1回など、進捗を振り返るタイミングをあらかじめ決めておいてください。
成果を出せたときは、報酬だけでなく「何を工夫したから上手くいったのか」を自分の言葉で振り返る時間も作ってみてください。
まとめ
モチベーションを保つ鍵は、気合いではなく、目標の立て方とフィードバックの仕組み、そして報酬の設計方法にあります。
具体的で難易度の高い目標とこまめなフィードバック、そして「報酬のためだけではない」と感じられる工夫の余地。
この2つを意識するだけで、無理なく続けられるモチベーション管理に近づきます。
参考にした情報
- Locke, E. A.(1968)「Toward a theory of task motivation and incentives」Organizational Behavior and Human Performance, 3(2), 157-189 https://garfield.library.upenn.edu/classics1982/A1982NJ34100001.pdf
- やる気ラボ「ロックの目標設定理論とは?【モチベーションを上げる目標設定術】」https://www.yaruki-lab.jp/goal-setting-theory/
- Deci, E. L., & Lepper, M. R.(1971)ソマパズル実験(アンダーマイニング効果)に関する解説:一創「アンダーマイニング効果とは何か?」https://www.issoh.co.jp/column/details/8462/
- Schoo「アンダーマイニング効果とは?内発的動機つけで社員のやる気をアップさせる方法を解説」https://schoo.jp/biz/column/866
- アルー株式会社「外発的動機付けとは?内発的動機付けとの違いと運用設計」https://service.alue.co.jp/blog/extrinsic-motivation