
営業での競合分析:他社との差別化を提案に活かす
価格で戦う限り、いつか必ず疲弊する
「他社より安くできますか」と聞かれるたびに、少しずつ体力を削られていくような感覚を覚えたことはないでしょうか。
価格で選ばれた顧客は、もっと安いところが現れれば、同じくらいあっさりと離れていきます。
しかも、価格を下げるという打ち手は、競合にとっても真似しやすく、長続きする優位性にはなりにくいという性質を持っています。
体力のある大企業ほど、この消耗戦を長く続けられる、という不公平さも重なります。
経営学者のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏は2005年、著書『ブルー・オーシャン戦略』の中で、この構造そのものから抜け出すための考え方を示しました。
同じ土俵で、同じ基準を比べ合う競争を「レッド・オーシャン(血みどろの海)」と呼び、そこから離れ、比較されること自体がない領域を切り開くことを提案したのです。
大企業の話に聞こえるかもしれませんが、この発想は、個人や小さな事業者の営業にも、十分応用できます。
ERRCグリッド:何を減らし、何を増やすか
キム氏らが提示した、差別化を考えるための具体的な道具に「ERRCグリッド」があります。
これは、業界の当たり前とされていることの中から、Eliminate(取り除くもの)、Reduce(減らすもの)、Raise(増やすもの)、Create(新しく生み出すもの)の4つを、それぞれ書き出していくという、シンプルな枠組みです。
たとえば、業界で当然とされている過剰なオプションや、実はあまり求められていない工程があれば、それを思い切って取り除く、あるいは減らす。
その分、顧客が本当に重視している部分、たとえば対応の速さや、担当者との距離の近さといった要素は、むしろ増やす。
そして、これまで誰も提供していなかった価値を、新たに作り出す。
この4つを並べて考えることで、「価格を下げる」以外の差別化の軸が、具体的に見えてきます。
差別化の材料は、意外と足元にある
ここで正直に書いておきたいのは、差別化というと、何か派手な新機能や、独自の技術を思い浮かべがちですが、実際にはそうとは限らないということです。
納期の確実さ、導入後のフォロー体制、担当者自身の専門性、トラブルが起きたときの対応の速さ。
こうした地味な要素の積み重ねが、価格以外の判断基準として、顧客の中に確かに存在しています。
以前の記事(「営業の事例紹介:顧客事例を説得に活かす活用法」)で扱った事例紹介や、「営業での権威性の活用」で扱った実績・資格は、まさにこうした差別化の要素を、顧客に伝わる形にするための道具です。
差別化とは、他社にない何かを新しく発明することだけでなく、自社がすでに持っている強みを、言葉にして伝えられているかどうかの問題でもあるのだと思います。
強みを社内で言語化できていなければ、営業担当者は価格の話になったとき、根拠を持って踏みとどまることができません。
今日からできること
自社の商品・サービスについて、ERRCグリッドの4項目(取り除く・減らす・増やす・新しく生み出す)を、実際に紙に書き出してみてください。
「安いから」以外の理由で選ばれた過去の顧客を思い出し、その理由が何だったのか、言葉にしてみてください。
次に価格の話になったとき、値下げではなく、その言語化した強みを、根拠として伝える練習をしてみてください。
まとめ
価格競争は、体力のある側が最後まで残る、消耗戦です。
ブルー・オーシャン戦略とERRCグリッドは、その土俵から降りるための、具体的な考え方を与えてくれます。
差別化の材料は、遠くにあるとは限りません。
これまでの記事で扱ってきた事例、実績、信頼関係といった、すでに足元にあるものを、言葉にして届けられるかどうか。
そこに、価格に頼らない営業の土台があるのだと思います。
参考にした情報
- DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「イノベーションとマーケティングをつなぐ――ブルー・オーシャン戦略」https://dhbr.diamond.jp/articles/-/4264?page=2
- ZIDAI Notebook「【図解】ブルーオーシャン戦略の鍵『ERRC』とは?バリューイノベーションを解説」https://zidaiinc.com/method/errc/
- プログレス アンド パートナーズ「『価格競争に巻き込まれない』営業戦略のつくり方」https://www.progressap.com/column/noprice_competition